無意識に反応する本音の感情

 

前回の記事は「オマエ、そんなにそのTシャツで外を歩きたいのか?」でした。

 

今回も前回に引き続き、小説『Fate/Zero』からの引用でスタートです。今回は主人公・衛宮切嗣の妻・アイリスフィールと衛宮切嗣の仕事上のパートナーである久宇舞弥が、2人でアジトから逃走しているシーンです。

そう告げた途端、舞弥が見せた表情の変化には(Fate/Zero)

「……やって来るのは、言峰綺礼よ」

そう告げた途端、舞弥が見せた表情の変化には、むしろアイリスフィールの方が驚いた。

いつだって氷のような無表情で、一切の感情を伺わせなかった女性。きっと心の中も氷のように冷徹なのだろうとばかり思っていたのに——

アイリスフィールが今はじめて目の当たりにした舞弥の‟感情”は、焦りと怒りとが同居する、静かながらも切迫した面持ちだった。そこに垣間見えたのは、恐怖とはまた別の危機感だ。彼女が恐れているのは綺礼という人物ではなく、今この場に綺礼が現れたという事態そのものの方なのだろう。

そこまで察した時点で、アイリスフィールは悟ってしまった。唐突に、だが数多の言葉を尽くすよりなお雄弁に。久宇舞弥という女性の内面を。

「舞弥さん、あなたが切嗣から受けた命令は、私の安全を確保することよね」

「はい。でも——」

「でも何?あの男だけは絶対に切嗣の所へ行かせるわけにはいかない、と思うわけ?」

?少しだけ底意地悪く微笑んで指摘すると、はたして舞弥は返事に詰まった。

「マダム、貴方は……」

「偶然ね。全く持って同意見なのよ。私も」

言峰綺礼。おそらくは切嗣にとって最悪の脅威になるであろう男。その名を耳にしただけで舞弥が見せた反応。

ホムンクルスとして生まれたアイリスフィールではあったが、恋に落ち、それを成就させて母親にまでなった彼女は、決して人形には理解し得ない、人間ならではの超感覚まで持ち合わせるようになっていた。——即ち‟女の直感”を。

虚淵玄『Fate/Zero 3 王たちの狂宴』

 

私たちが表に出している態度や表情、そして言葉などは、自ら意識して操作することが出来ます。すなわち、状況に応じて嘘をついたりごまかしたりすることが出来るということです。

 

いろいろな顔を使い分ける人がいます。本当の自分ではない仮面をかぶりその仮面で自分の本音にフタをして隠し、その場その場で都合のいいペルソナを設定して、その役柄を演じるのです。これを意識してしている人もいれば無意識でやっている人もいます。

 

自分の本音がわかっていて意識して隠している分にはいいですが、無意識に自分の本音にフタをすることを続けていると、本音ではなく周りに合わせて振る舞っている自分を本当の自分だと錯覚しそう思い込む傾向があります。

 

そうなると自分の本当の感情や本音が、どこにあるのかがわからなくなってしまいます。

 

コーチングや気功ヒーリングの対面セッションでは、まずは相手の心の底にある本音の部分を観ることが重要です。しかし、本当に自分の本音がわからない人は取り繕った言葉しか言えなかったりする場合があります。そういった人達の本音を知りたい場合はどうしたらいいでしょうか?

 

そう告げた途端、舞弥が見せた表情の変化には、むしろアイリスフィールの方が驚いた

 

その答えは、表情を観ることです。それも思いがけずに無意識に発動したとっさの表情です。

 

私たちの何かしらに対する反応は、考えるよりも先に身体に出てきます。具体的に言えば身体の筋肉です。その筋肉の中でも注目すべき部分は顔の細やかな表情の変化です。微表情と言われるものです。

そして、それは前もって予想された事態にたいする表情ではなく、予期せぬ事態に対するほんのわずかな細やかな筋肉の動きです。意識していないと見逃してしまうようなピクピクっという細やかな変化です。コンマ何秒かという世界です。

 

このとっさの微表情の中に、本音が無意識にさらけだされます。喜怒哀楽を含めた感情がほんのわずかな瞬間だけ表面に現れます。ここだけは基本的にはごまかすことが出来ません。コーチングでコーチは当然ながらこの微表情を注目して観ているわけです。

 

では、もしあなたが自身が自分の本音に気づきたい場合はどうすればいいのか?

 

これは他者を観る時と同じように、自分が予期せぬ事態に対して出た筋肉の反応に意識を向けることです。といってもとっさの反応は無意識なので、細かく言えば無意識にした筋肉の反応に気づくことです。

 

そして、他者であれば注目する部分は顔の筋肉だけでしたが(コーチによっては他の部分もチェックしています)、自分自身の場合であれば顔だけでなく自分の身体全体の筋肉の反応を感じ取ることが出来るので、その反応を察知してその反応がどんな感情から出てきたものなのかを仕分けします。それをどう仕分けするかと言うと、まずは単純にその反応がポジティブな反応なのかネガティブな反応なのかで分けていきましょう。

 

そして当然ながらポジティブな反応であれば、あなたの本音がそれを喜んでいるということであり、ネガティブな反応であれば、あなたの本音はそれを望んでいないということです。

 

まとめると、要はあなたの本音はとっさの筋肉の反応に出るということ。その反応は考えるより先に無意識が反応し、その反応を顔や身体の筋肉が感じるということです。そして、顔の微表情や筋肉の感じる感覚は瞬間的な時間しかないが、そこで感じたことに意識を向けて気づくことが、他者や自分の本音に気づくことに役に立つのです。

 

人間ならではの超感覚まで持ち合わせるようになっていた。——即ち‟女の直感”を

 

顔の微表情や筋肉の反応といった部分を意識するようにしていると、感覚がどんどん磨かれていきます。また、もともと男性よりも女性の方が繊細で細かな表情の変化に敏感です。男性の嘘が女性に見破られやすく、女性の嘘に男性が気づきにくいのは、この直感の感覚の差が大きいですね。

 

Fate/Zero(3) 王たちの狂宴 (星海社文庫)

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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