慣れ親しんだ状態を維持しようとするホメオスタシス

 

前回の記事は「今夜明らかに綺礼は、遠坂時臣の忠臣としての一線を越えたのだ」でした。

 

さて、今日から令和の時代の始まりです。

ということで、今回も小説『Fate/Zero』からの引用です。今回も悩める言峰綺礼です。

慣れ親しんだ主禱文を咄嗟に口ずさんだのは、一種の防衛本能であったのかもしれない(Fate/Zero)

‟血の匂いを巡る獣のように——魂は愉悦を追い求める——”

心の内に居座った紅玉のような双眸が、邪笑とともに囁きかける。

愉悦こそは魂の容(かたち)だと、そう彼は語ったのではなかったか。そこにこそ言峰綺礼の本性があるのだと——

「……主よ……御名を崇めさせ賜え。御国を来たらせ賜え。天に御心の成るが如くに、地にもまた成させたまえ……」

日々の祈りで慣れ親しんだ主禱文を咄嗟に口ずさんだのは、一種の防衛本能であったのかもしれない。そうやって聖職者としての本分に立ち戻ることで、彼はバラバラに分解しかかっていた己の心を、すんでのところで緊縛することができた。

「我らが仇を赦すが如くに、我らの罪を赦し賜え……どうか我らを誘惑に遭わすなかれ、我らを悪より救い賜え……Amen」

とめどなく頬を伝う涙の、その呪わしき真実を忘却の彼方に封じ込め、綺礼は父の冥福を祈り十字を切った。

虚淵玄『Fate/Zero 4 散りゆく者たち』

 

ホメオスタシスの話です。

身体のような物理的に目に見える物から、性格や思考パターンのような実体のない情報的な物まで、私たちにはホメオスタシスのように無意識で現状維持させるようなが働きがあります。

 

汗をかいて体温調整するのも、ケガをした時の傷口が塞がるのも、ホメオスタシス(恒常性維持機能)が無意識で勝手にやってくれます。そこに私たちの意思は介入しません。

 

夏の暑い日に外を歩いていて、その時に無意識に出ている汗を意識して止めようとしても止まりません。意思の力ではどうしようもないのです。

 

それに対して、性格や思考パターンのよう情報空間のものは、意思の力でなんとか変えられそうな気がします。たしかに汗を意思の力で止めることは難しいですが、自分の考え方を変えることや何か今までにしたことのないことをしようと決断することは可能です。

 

ここで意識と無意識です。

意識はあなたの意思であり、無意識はあなたのホメオスタシスとして捉えてみます。

あなたが自分の考えるという意思を持つことは意識してやったことです。その時あなたの無意識は、今までと違うことをしようとする自分に対し違和感を感じ必死に現状維持に戻そうとします。

 

何かを決断して意識が高揚している時は新しい自分に変われたような気がしますが、人間は同じことを意識し続けたり同じ気分でずっと過ごすことは出来ません。私たちが普段していることのほとんどが無意識のパターンであり無意識での活動です。だから、あなたが意識していない間に、無意識のホメオスタシスが今まで通りのあなたに戻してしまいます。

日々の祈りで慣れ親しんだ主禱文を咄嗟に口ずさんだのは、一種の防衛本能であったのかもしれない

私たちは慣れ親しんだ環境や状況にいると安心します。どこに出かけても、しっかりと自分の家に帰ってくるのもそういう感じです。今までと同じ自分、今までと同じ環境に無意識で安心感を抱いています。

 

これは何も悪いことではありません。例えば、あなたにネガティブなことが起こったり精神的に不安定な状態になってしまった時に、いつも慣れ親しんだ環境や友人、普段身に付けている物を見たりや普段日常的にしていることをすると、落ち着いて対応出来るようになったり精神的に安定したりします。これも無意識を活用したホメオスタシスの働きと言えるでしょう。

 

とにかく、ポジティブであれネガティブであれ意識して変えようとしても、その意識を忘れて無意識が対応するようになると元に戻ってしまうのです。

 

さらに言えば、何か自分をポジティブに変えるような行動や決断なりをしたとしても、時間の経過とともに、無意識のホメオスタシスがあなたの意識の方にまで介入してきて、あなたのした行動や決断に対してまでネガティブな意識を持つようになります。そして、変わることを留まったことに対して安心してしまうのです。

そうやって聖職者としての本分に立ち戻ることで、彼はバラバラに分解しかかっていた己の心を、すんでのところで緊縛することができた

 

私たちは自分が変われないことに対して、自分の意思の弱さを嘆いたりします。しかし、ホメオスタシスの働きに対抗するには基本的には意志の力だけでは弱すぎるのです。よっぽど命にかかわることとか、そうでもない限り意思の力で自分を変えることは難しいのです。

 

多くの人が、セルフコーチングで挫折するポイントがここです。意思の力で頑張ろうとするからうまくいかないのです。

 

自分を変えるために必要なことは単純です。

自分が変わるということは、無意識のホメオスタシスが変わるということです。無意識のホメオスタシスが変化した新しい自分の方が現状だと認識している状態が、自分が変わったということです。

 

であれば、無意識のホメオスタシスを変えるためにやるべきことは、意思の力で頑張ることではなく、意思(意識)を使わずに自然にそれをやったり思い出したりする環境を作るように自分の生活をデザインしていくことです。

 

平たく言えば、頭を使えということです。

 

誤解を恐れずに言えば、ここでポイントになるのは、いかに『頑張らずに手を抜いて自分を変える方法』を考えられるか、ということです。頑張るために必要なことはこうした戦術を考える部分になってくるのです。

 

その方法なり戦術が間違っていなければ、あとはそのパターンに任せて自分の無意識に刷り込んでいけばいいだけなのです。そうすれば後は時間が解決してくれるので、あなたはさらに別のゴールゴールをどんどん設定して、そのゴール達もあなたに合った方法を使って同じように無意識に刷り込んでいくことで、何年か先には今のあなたとは別人のような理想の自分に近づいているのです。

Fate/Zero Blu-ray Disc Box Standard Edition

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

おすすめの記事