「何かを手に入れたら幸せになれる」わけではない

 

前回の記事は流れる麦酒は泡を立てないーあわてるな満ちればたどり着くでした。

 

今回も前回に引き続き『テガミバチ』からの引用です。

『テガミバチ』を知らない人のために、簡単なあらすじを掲載しておきます。

あらすじ

夜が明けることのない星に、「アンバーグラウンド」という名の地がある。首都を照らす人工太陽の光が届かない、暗く危険な地域を旅する国家公務があった。彼らの仕事はその地で生きる人々の「こころ」が込められた「テガミ」を届けること。命を賭して「こころ」を届ける彼らを人々は「テガミバチ」と呼んだ。

7歳の頃、母親と生き別れた少年・ラグ・シーイングは、郵便物(テガミ)として運ばれることになるが、そんな自分を守り、目的地まで送り届けてくれた、テガミバチのゴーシュ・スエードに憧れを抱き、テガミバチになることを決意。5年後、採用試験に合格したラグは、最高のテガミバチ「ヘッド・ビー」を目指すため、配達作業に奮闘する。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ぼくには出来ないことばかり 叶わないことばかりです(テガミバチ)

リリー・コンフォート「ラグ・シーイングはまるで女帝様に愛されて生まれてきたみたい だから『光の子』だって」

ラグ・シーイング「ぼ… ぼくのこと…!?」

「みんなそう言ってますよ!」

「私もあなたくらい才能があったらな… 出来ないことが何もない…って 素敵でしょうね…!」

「私だったら…」

「そんなことない…」

「ぼくには出来ないことばかり…… 叶わないことばかりです…… 何も…」

「…… 何も…」

浅田弘幸著『テガミバチ』第12巻

 

ちっちゃな子供のころは、少しだけ年上の子供が頼りがいのある大きな存在のように見えたりします。小学生くらいの時は、お父さんやお母さんが何でも分かってて何でも知っている凄い人のように見えたりします。中高生くらいの時は、二十歳超えて仕事をしたら好きなことは何でも出来ると出来るように思ったりします。

 

しかし、実際に自分が先輩になり、大人になり、子供を持った時に、あなたは自分のことをどう思ったでしょうか?あなたがかつて思っていたようなイメージどおりになっているでしょうか?

これは、はたから見れば、まぁそれなりにだいたいイメージどおりにはなっています。ただし、本人としてみれば、これが自分があこがれていたことだったのかと思ってしまいます。

 

なぜそうなるかの理由のひとつとして、自分が望んでいたものを手に入れて、それなりに本人は成長しているはずですが、そのかつて望んでいたものが手に入るようになるころには、もうその望みは手が届かないあこがれではなく「確実に手に入るモノ」となっているためです。もちろん最初は嬉しいかもしれないですが、それはすぐに慣れてしまいます。

 

だから、それを手にすることが叶わない人からすれば、とてもうらやましくあこがれの人だと思われるかもしれませんが、本人からしてみたらそんなに思われているほどには達成感を持ってはいないのです。

 

私もあなたくらい才能があったらな… 出来ないことが何もない…って 素敵でしょうね…!

 

私たちの中には、自分の持っていない何かを手にすることで、自分は幸せになれると思い込んでいる人もいると思います。「あの技術さえマスター出来れば」「あの資格試験に合格しさえすれば」「あの人と結婚出来れば」幸せになれると思い込んだりします。

しかし現実的には、望んでいた何かを手に入れたところで、それでその後の人生が幸せになるかといったら必ずしもそうではありません。なぜなら、何かを手に入れたら幸せになれると思っている人は「何かを手に入れたら幸せになれる」という思考パターンが身についているので、常に幸せは「何かを手に入れた」未来にあるからです。

 

幸せとは、未来に見ることではなく、今なることです。もちろん楽しい未来や理想の未来を思い描くことはとても重要です。しかしながら、何のために楽しい未来や理想の未来を思い描くかと言えば、今が楽しくなるからです。今が幸せになるからです。優先すべきは今現在なのです。

 

「何かを手に入れたら幸せになれる」というような、何かにすがるようなマインドをセットしていることは、そもそもが今は幸せではないと宣言しているようなものです。

 

私たちがマインドにセットすべきことは、まずは毎日を楽しむことであり、この世界には未来にさらなる楽しみと成長の可能性がたくさん広がっていることを認識することです。

 

「あたしゃね、考えてみると、これまでうじうじしすぎてたような気がするんだ。だからウォーカーみたいな最低の男のことも何となくだいじに思っていたんだよ。けどね、エル・ドゥロ、あんたに会って、あたしゃ目から鱗が落ちた。気楽に好き勝手やるのが一番だって気づいた。これまでうじうじしてたぶんを取り返さなきゃあね、これからあたしゃびんびんに愉しんで生きることにするよ」

船戸与一著「蟹喰い猿フーガ」

 

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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