ホメオスタシスと無意識のパターンには意思の力だけでは逆らえない

 

前回の記事は迷路を彷徨うモルモットを上から俯瞰する観察者の眼差し~抽象度の話でした。

今回も小説『Fate/Zero』からの引用でスタートします。今回は悩める神父・言峰綺礼が自分のやりたいことをやらない言い訳をあれこれ夢想している場面です。

何を失うにせよ、間違いなくそこに安息だけは約束されている(Fate/Zero)

「予感がある。——全ての答えを知った時、この私は、破滅することになるのだと」

(略)

いっそこのまま、すべてに背を向けて去るべきではないのか。最後まで遠坂時臣の従順な弟子として、師の差配に従い退却する。名目としては申し分ない。

以降はすべてを忘却し、何も問わず、何も求めず、草木のように無為に生涯を過ごせばいい。何を失うにせよ、間違いなくそこに安息だけは約束されている。

「くだらぬことを考えるなよ、綺礼」

すかさず、夢想を遮って、アーチャーが戒めの言葉を放った。

「そんなにも都合よく生き方を変えられるなら、今日のように悩むお前が出来上がるわけがない。常に問いながら生きてきたお前は、最後まで問いかけながら死んでいくのだ。答えを得ぬままでは安息もないぞ」

「……」

「むしろ祝うべきであろう?長きにわたるお前の巡礼が、ついに目的地に至るのだ」

虚淵玄『Fate/Zero 5 闇の胎動』

 

生き方や自分の進む道について悩むことがあります。新しい道を進んで行くか、このまま今まで通りの道を進んで行くか。

 

今の生活の現状に何らかの不満を抱えていて、それを変えていきたいという人がいます。

そういう人が、新しい道となるようなやってみたいことや進むべき方向性を見つけたり思いついたりすることは、自分の未来を想像する上で大きな喜びと希望となります。目の前が明るくなって道が開けた感じになります。

 

「新しい未来を想像したい」という気持ちと「現状を変えていきたい」という気持ちは、自分を良い方向に変化させていく大きな原動力となります。しかし、この2つの気持ちはいつもやる気MAXではありません。

 

やる気MAXが何かはさておき、人の気持ちはいつも同じではなく、揺らいでいます。昨日いいなと思ったことが今日はそうでもなかったり、昨日あれだけ嫌がったのに今日は普通い受け入れたりと、そんなことがあったのも一度や二度ではないと思います。

 

私たちの意識に大きな影響を与えるのが、ホメオスタシスという現状維持装置です。ホメオスタシスは私たちの生体を守ってくれるとても優秀なシステムです。しかしながら、ホメオスタシスは私たちが良い方向に変わっていこうとする時もその優秀さを発揮します。

 

その優秀さとは、新しい道をあきらめさせることであり、現状にあなたをとどめることです。あなたの無意識やホメオスタシスはあなたが変わることに対して、それを思いとどまるようにとあらゆる手段を使って必死に説得を試みます。

 

いっそこのまま、すべてに背を向けて去るべきではないのか。最後まで遠坂時臣の従順な弟子として、師の差配に従い退却する。名目としては申し分ない。

 

それゆえ、時間が経過すると「新しい未来を想像したい」という気持ちは「新しい未来への不安」に変化していき、「現状を変えていきたい」という気持ちは「現状に対する安心感」へと変化していきます。

 

ホメオスタシスは、あなたのために新しい道をあきらめるためのもっともらしい理由を作ってくれて、現状維持する自分を正当化しようとします。

 

以降はすべてを忘却し、何も問わず、何も求めず、草木のように無為に生涯を過ごせばいい。何を失うにせよ、間違いなくそこに安息だけは約束されている。

 

さらには、「新しい自分」を追い求めようとすること自体を否定し、ある意味であきらめの境地にまで追い込もうとしてきます。ダイエットにおけるリバウンドのようなものです。ホメオスタシスはいつも少し過剰に反応し、完全に戦意喪失に追い込みます。

 

こうなってしまうと「新しい道」よりも「今までの道」をそのまま進むことの方が臨場感が高いで、多くの人は悩むことをやめて、あっさりと挑戦をあきらめてしまうのです。さらに「自分には新しいことに挑戦するなんて無理なことだったんだ」というような自己否定のおまけまで付けてしくれます。同じような行動に出ないように、ホメオスタシスがご丁寧にも無意識に書き込んでくれるのです。だから「新しい道」に挑戦しない人は、さらに挑戦出来なくなってくるのです。

 

だから変わらない人は、ずっと変わることができす、逆に変わる人はどんどん変わっていきます。簡単に言えば、やる人はいつもやるし、やらない人はいつもやらないのです。無意識のパターンがそのように誘導してしまうのです。

 

あなたが意思の力でどうにかしようとしても、無意識のパターンの方が力が圧倒的に強いので、いつも返り討ちにされてしまうのです。私たちの社会は意思の力さえあれば何でも出来ると過信しがちです。ですが意思の力は無意識の前ではほとんど無力なのです。

 

なので、なかなか新しい行動に踏み切れない人たちが自分を変えようとするのであれば、やるべきことは「意思の力でやる気を持続させる」というような出来そうで出来ないことを盲信するのではなく、自分の中に新しいパターンを作っていくことです。自分の脳に新しい回路を作っていく感じです。

自分の中に新しいパターンを作っていくこと方法は、セルフコーチングとしてこのブログでいつも言うように「自分で決めて自分でやる」ことをコツコツやることです。自分の無意識のパターンを書き換えていくことです。

 

簡単なことで例えるとすると、スマホゲームをしてた時間を筋トレや読書の習慣にパターンを変更したり、ランチで食事に行く時にいつも同じ店のローテーションだったのを週に1回は必ず今まで行ったことがない店に入ってみるというようなことです。

 

どんなことでもいいので、自分の出来る小さなことから変えていきたい習慣(パターン)を自分が望む方向に変えていくのです。それを自分で決めて自分でやるのです。

 

それを繰り返すことで、新しいことに対して挑戦する回路が出来たり、自分で決めたことを実行したという小さな成功体験によって、自己肯定感というあなたを後押ししてくれるマインドがあなたの無意識に刻まれていくことになるのです。

 

これが自分の中に新しいパターンを作っていくということであり、脳を味方につけて自分の人生を思い通りにつくっていくための土台となるのです。

 

※やる気や意思に関係なく身体が勝手に動いてしまうような、そんなゴール設定がある人は是非それにのめり込んで突き進んでいってください。今回の記事はどちらかというと、変わりたいけど動けない人に向けた記事となっています。

 

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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※引用しているのは小説版からですがコミックも販売されています。

 

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