精神が壊れるより先に逃げましょう

 

前回の記事は余の理想はただの妄想でしかなかった~行動につながるなら妄想でもいいでした。

今回も小説『Fate/Zero』からの引用でスタートします。衛宮切嗣のサポート役である久宇舞弥が切嗣の妻であるアイリスフィールに、自分が聖杯戦争に参加している理由を語る場面です。

精神が壊れてしまったから、その分だけ生命が長持ちしたんです(Fate/Zero )

「憶えているのは、そこがどうしようもなく貧しい国だったということだけ。希望もなく、未来もなく、ただお互いに憎しみ合い、奪い合うことだけでしか生きる糧を得られない場所でした。

戦争は決して終わらず、軍隊を維持する資金すらないのに、それでも殺し合いを続けるしかない毎日……そのうちに、誰かが思いついたんです。兵隊を徴用して訓練するより、子供を攫ってきて銃を持たせる方が安上がりで手っ取り早い、とね」

「……」

「だから銃を渡されるより以前のことは憶えていません。そんな風に、精神が壊れてしまったから、その分だけ生命が長持ちしたんです。敵を狙って、銃爪を引く。そういう機能だけを残して、あとは全てを捨て去って……それができなかった子は、できた子たちより先に死んでいきました。そして私は、たまたま切嗣と出会った日まで生き残れた」

(略)

「私はヒトとしての中身が死んでいる。ただ外側の器だけがまだ動いて、昔馴染みの機能を維持しています。それが私の‟生命”です。拾ったのは切嗣だ。だから切嗣が好きなように使ってくれればいい。……それが、私がここにいる理由です」

虚淵玄『Fate/Zero 5 闇の胎動』

 

俗に言うブラック企業とかブラックな環境があります。厳しい労働環境の中で過剰なストレスを強いられたり、ここまでしなくてはいけないのかということを命令されたり、暴力的な言動が日常茶飯事にあったり、そのコミュニティの利益のために他者に対して「それって人としてどうなの」ということをやるのが当たり前となっている場所というのが存在しています。

 

こういう場所と知ってか知らずか、普通に思いやりや優しさを持った人がその中に入ってしまうことがあります。

 

まぁブラックとわかってすぐにやめればいいのですが、ブラック側も巧妙に研修と称して最初はブラックさを隠したり、マインドコントロールなどで辞めにくいような状況を仕組んだりします。

 

特に社会経験のない新卒の社員であれば「仕事とはこういうこのでありこんなこともできないようじゃどこに行ってもやっていけない」ようなことを植え付けられ、とにかく上から指示されたことを忠実にやることが正義であるかのように、ある意味洗脳されていきます。

 

ただし、ブラックと気づかずにブラックの中に入っても多くの人はどこかしらで気づきます。これって何かおかしくないかと。会社の在り方や自分のやっていることに疑問を持ちます。

 

しかしながら、気づいたときにはその環境で繰り返しやっていたことが無意識のホメオスタシスにパターンとして組み込まれてしまっているために、やっていることに疑問を持ちながらもいつも通りのこととして身体は勝手に反応してしまいます。

 

ここで勇気を持って辞めようとしても、会社からはなんやかんやとなだめすかしながら強引に引き止めようとしてきます。辞めようとした側は、その場所がホメオスタシスと化しているために、会社側からの強引なまでの説得に、そこまで言うのならもう少し頑張ってみますと、渋々現状維持に留まることに屈してしまいます。

 

ブラックな環境で続けたはいいがブラックさに気づいてしまった人は、会社の在り方や自分のやっていることがストレスになるようになります。何も気づかずに会社を信じて盲目的に働き現実を知らなかった方が逆に幸せだったのかもしれません。なぜなら気づいてしまったばっかりに、優しさや思いやりの気持ちがある人ほど、ストレスに肉体と精神がやられてしまうからです。

 

ストレスにやられ精神や肉体が異常を示し始めると、そこに生命の危機を感じる人がでてきます。このままではやばいぞと。人は自分の生死にかかわることとなると、それはホメオスタシスをも突破する強力なモチベーションが発揮されます。そうなると、会社側の引き留め工作を上回るような、絶対にやめてやるというエネルギーが沸き起こります。そうして何とかブラックな場所から抜けることが出来ます。

 

で、このようなブラックな環境の中でブラックとわかっていても尚且つ続けていける人がいます。そういう人の中に、強力なストレスに対しそこから逃げるのではなく、別なある方法で対処してその中で生き抜くことを選択する人が出てきます。

 

「だから銃を渡されるより以前のことは憶えていません。そんな風に、精神が壊れてしまったから、その分だけ生命が長持ちしたんです。敵を狙って、銃爪を引く。そういう機能だけを残して、あとは全てを捨て去って……それができなかった子は、できた子たちより先に死んでいきました。そして私は、たまたま切嗣と出会った日まで生き残れた」

その方法とは、自分の精神を壊してしまうことです。愛とか勇気とか優しさとか思いやりとか、そんな人としての優れた機能を全部こわしてしまうことです。愛とか勇気とか優しさとか思いやりがあるからストレスを感じてしまうのであれば、そのストレスとなる原因をなくしてしまえばいいということです。そうやって人としての優れた機能を停止させることで、命じられたことだけを何の疑いもなく機械のように機能させるのです。

 

そうすることで、ブラックな環境でも肉体の方は壊さずに生き残り、ブラックな中ではあるが優秀な社員としてそこそこの収入も得られることになります。

 

自分の精神を壊してしまうと書きましたが、大抵は自ら壊すというよりは追い詰められたことによる防御反応として、勝手に壊れたという方が正しいでしょう。

 

しかしながら、人間としての大事なものを壊してまで、そうなってしまうまで我慢してまで、そのようなブラックな環境にとどまるような人生が楽しいのでしょうか?幸せな人生なのでしょか?まぁ人の価値観は人それぞれなのでそれ以上は言いませんが、あまりおすすめしたくない生き方ではあります。

 

引用文の久宇舞弥の場合は、その場所から逃れるすべもなかったため、そうせざるを得なかったのでしょう。逆にそれ以外に生き残る方法はなかったのだから。

 

しかしながら、ほとんどの人は自分の生き方を自分で選べます。

にもかかわらず、皆さんの中には精神を壊すとまではいかないでしょうが、自分の感情や本心を麻痺させて自分の優れた機能を停止させることを選んでしまうことがないでしょうか?

 

この方法をたまに使うのなら生きる知恵として有効なのかもしれませんが、日常的に使いだすとそれこそ生きることに喜びをもたない生きた機械のようになってしまう可能性が否定できません。

 

私はヒトとしての中身が死んでいる。ただ外側の器だけがまだ動いて、昔馴染みの機能を維持しています。

 

人としてこの世に生を受ける中で私たちはたくさんのすばらしい宝物を授かりました。その宝物の中でも、愛とか勇気とか優しさとか思いやりとか、人が中身として特別に授かった大事な機能は何よりも無くしてはいけないモノなのです。

 

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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