習慣のトリガー~場所に記憶は埋め込まれている

 

前回の記事は誰かから聞いた単純なルールに従う~安全な道を選ぶ方法でした。

気まぐれに、いつもの記事とは反対側の立場から見た風景を書いてみました。

 

今回は通常運転に戻って、このブログではお馴染みの(馴染んでいるのか?)小説『Fate/Zero』からの引用でスタートです。主人公である衛宮切嗣(えみやきりつぐ)の心象風景になります。

ついさっき、何の気なしに自販機で買ってしまった(Fate/Zero)

ついさっき、何の気なしに自販機で買ってしまった煙草の紙パッケージを、切嗣は複雑な心境で見下ろした。

喫煙の習慣をやめて九年になる。遠い異郷のアインツベルンでは、吸いなれた銘柄が手に入らなかったというのもあるが、それ以上に母子への心遣いがあった。それが、いよいよ戦いの本番という気構えで冬木駅に降り立った途端、遠い昔の習慣のままに、自販機にコインを投入していた。

気を取り直し、通りがかったコンビニエンスストアで使い捨てライターを購入してから煙草を開封する。整列したフィルターの白さが眩しい。

一本を銜えて、火を点けた。一〇年近いブランクがあるとは思えないほどに、無駄なく自然な動作でそれができた。肺に流れ込む芳香の痺れも、まるで昨日味わったばかりであるかのように慣れ親しんだ味わいだった。

虚淵玄『Fate/Zero 2 英霊参集』 

 

私たちはいろいろなことを記憶しています。特に学校や職場などのような長い時間を過ごした場所や人間関係などについては、長い時間が経過して思い出すことが無くなった今でも、習慣として馴染んだ感触は記憶の中の無意識に保存されています。

 

その長い間思い出すことがなかった記憶でも、あるトリガーをきっかけに急に記憶の奥から臨場感高く目の前に飛び出してくることがあります。(トリガーは何かを思い出すきっかけのことです。思い出される何かのことはアンカーと言います)

 

その思い出すきっかけとなるトリガーとは、場所や人や物です。

 

例えば場所のトリガーで言うと、何十年かぶりに以前に通っていた中学校の教室に入り椅子に座って黒板を眺めると、何十年か前の授業の風景やその時の記憶が臨場感高く蘇ってきます。昔働いていた職場でも同様です。

人のトリガーで言えば、久しぶりにかつての同級生や同僚と会った時に、そのかつて一緒にいた時代の記憶が呼び出され、さらにその当時の気分になって会話をしたりします。

 

物のトリガーで言えば、小さいころに竹馬に乗って遊んでいた人が、その後30年くらい竹馬に乗らないどころか竹馬のことを一切思い出さなかったとしても、目の前に竹馬を出されると無意識から昔の記憶が呼び出されひょいひょいと竹馬に乗れてしまいます。これは自転車でも一緒です。

 

一〇年近いブランクがあるとは思えないほどに、無駄なく自然な動作でそれができた

 

で、何が言いたいかと言えば、あなたがかつて馴染んだような場所や人や物にはあなたに何かを思い出させるトリガー埋め込まれているということです。

 

いよいよ戦いの本番という気構えで冬木駅に降り立った途端、遠い昔の習慣のままに、自販機にコインを投入していた

 

ここでフォーカスしたいことは習慣です。

コーチングであったり自分を変えたいと思ったときに注目したいポイントのひとつは、無意識でしている思考パターンや行動パターンであり、それは平たく言うと習慣です。そして、その習慣の多くは脳内に埋め込まれているのですが、場所や人や物をトリガーとして発火することもたくさんあります。

 

これは、その場所にいる時にする習慣、その人といる時にする習慣、その物に触れている時などにする習慣とも言えます。例えば、正月休みに何年ぶりかで実家に帰省した時に、すぐにその場や人に馴染めるのはその典型です。

 

かつて馴染んでいた習慣が、場所や人や物によって無意識に呼び出されているのです。

ここで重要なことは、かつて馴染んでいたものでさえトリガーとなっているということです。ということは、今のあなたがいつも馴染んでいる場所や人や物は、当然ながら今のあなたを作っている習慣のトリガーとなっているということです。しかも、それが現在進行形で毎日繰り返されているのです。

 

あなたが自分の部屋にいる時、家の洗面所にいる時、通勤電車に乗っている時、職場のデスクにいる時、職場の同僚、家族、恋人、携帯電話など触れる機会が多く馴染んでいる場所や人や物には無意識のうちにトリガーとなる何らかのパターンがあるということです。

 

で、もしそのパターンの中で変えてしまいたいことがあった時に、あなた自身を変えるのではなく、場所や人や物に対して変化を促すアプローチをした方が効果的なことが多々あります。

 

例えば、隙間時間にスマホでゲームをしてしまう習慣を止めたいと思った場合、自分の理性と意思を働かせてゲームをしないように働きかけるよりも、スマホからゲームを削除して物理的に出来なくしてしまう方が簡単です。スマホという物の機能を書き換えたことで、自分の習慣も変えるということです。

 

よく自分を変えたいなら「住む場所を変えること」「人間関係を変えること」「職場を変えること」などが効果的だと言われていますが、それは場所や人や物に埋め込まれている習慣を強制的にリセットさせることで新しい習慣を組み立てやすくする働きがあるからです。

 

ついさっき、何の気なしに自販機で買ってしまった煙草の紙パッケージを、切嗣は複雑な心境で見下ろした

 

人間の意思はそれほど強いモノではありません(人によりますが)。人間は無意識に何の気なしに習慣のままに行動してしまう生き物です。

 

だから、もし自分の書き換えが上手くいかないようであるなら、場所や人や物などあなたの周りの状態の方に視点を切り替えてみることをおすすめします。ただし、どちらにせよ必ず行動することは必要となります。

 

Fate/Zero(2) 英霊参集 (星海社文庫)

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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